夏の暑さに負けないように。

うなぎ あなたはどうやって食べる?様々なメニューを生み出す食材。

 暑い夏の季節がやって来ました。常日頃皆さんはどのような方法で暑い夏を乗り越えていますか。クーラーをガンガンかけて部屋にこもっている、涼しい避暑地に行って休日を満喫して帰ってくる、暑さを考えないようにしている等々いろいろ過ごし方はあると思います。

 でも夏の暑さを乗り切るには何と言っても食べるのが一番です。鰻は滋養強壮に良い食品として縄文時代から食べられていました。そこで土用の丑の日に欠かせない食べ物である” うなぎ” について話をしてみたいと思います。

 

未知の生き物であるうなぎ。

 うなぎは未だに解明されていない部分がたくさんある謎の魚です。山芋が変じてうなぎになったに違いない。あるいはその昔はうなぎが蛇に似ていることから ” 蛇ならぬうなぎの祟り ” にちなんだ怪談話なども流行っていたそうです。また次のような話もあります。

 ある川で村人たちが毒を流して漁業をしようと計画していました。そんなある日、村人の前に黒い衣を羽織った年老いた僧侶が現れて「魚を見殺しにするからしてはいけない。」と忠告したそうです。けれども村人は忠告に耳を傾けることなく漁を断行し大量に魚を採って家に持ち帰ります。翌日に村人が採った魚を確かめると小さな魚に混ざって大きなうなぎが混ざっていました。早速鰻の腹をさばいてみると、中から昨日の昼に老僧にふるまった団子が出てきたという。

 当時は生態が不明で未知の生物と言われていた鰻にはこうした不思議なお話が数多く言い伝えられていました。

そもそもうなぎって何?どうやって釣っているの?何処で獲れるの?

 そもそもどうして鰻は「うなぎ」と言うのでしょうか。家の屋根の2枚の屋根板が重なる部分に用いられる木材をムナギあるいはムネギと言いますがそれが転じてうなぎと呼ばれた。屋根板の重複部分に使われている棟木(むなぎ)という木材の形がうなぎの形に似ていて細長かったことからきています。京都や大阪では間口が狭いので奥行を長くし動線を縦長にした『長家』が主流でこうした家を『うなぎの寝床』と呼んでいました。理由は家の形が細長くうなぎが休息するのに丁度よい長さだったからです。或いはうなぎの胸が黄色いので ”むねが黄色い” が訛って『ムネギ→うなぎ』と呼ばれるようになったという説もあります。更に関西では料理の際にうなぎの胸を開くことから 『胸を開く』から転じて『胸開き →うなぎ』としたとも言われています。うなぎはうなぎ科うなぎ属の魚で硬骨魚類で外見は細長い形をしています。普段は河川が流れ込む用水路や汽水域と呼ばれる海水と淡水とが混ざり合う場所で暮らしています。暖かい熱帯から湿地帯にかけて住んでいるのが普通です。そして冬は冬眠します。自然界ではどじょう、淡水魚のホンモロコ、すじえびなどを食べて生息しています。日本うなぎ、おおうなぎ、ヨーロッパうなぎ、アメリカうなぎ等その数はざっと19種類ほどです。その内日本で食用としているのは日本うなぎとヨーロッパうなぎです。その他にもうなぎとされているものには風船うなぎ、電気うなぎ、たうなぎがあります。これらは分類学上では違う種類ですが形が細長くうなぎとしています。やつめうなぎ、ぬたうなぎも分類学上では鰻(うなぎ)の仲間です。

 漁は竿の先に針をしかけて餌を付け川に投げ入れるぶっこみ釣り(いわゆる一本釣り)やうなぎが居そうな所に針と糸がついた竹筒を刺して置いて釣る置き釣り、先端に針と糸を付けた竹筒を持ち歩いてそのつど狙った隙間に針を入れて漁をする穴釣りという手法があります。置き釣りや穴釣りはうなぎ特有の釣り方になります。

 うなぎは夜行性なので日没から明け方にかけて漁を行います。日本では静岡県遠州地方、愛知県三河地方、三重県中伊勢地方で盛んです。さらに岐阜県、鹿児島県、宮崎県、高知県、徳島県でもうなぎ漁が解禁されています。

天然うなぎと養殖うなぎに違いについて。

 うなぎは縄文時代から疲労回復に良いとして食されてきました。このことは万葉集にも詠まれています。明治12年に殖産家である服部倉次郎が東京都深川市でそして明治24年に静岡県湖西市で洪水をおさめ暮らしに必要な水を手当てするために事業をする治水家でありまた政治家であった原田仙右衛門が養殖を始めたのが養殖うなぎの発端でした。

 そもそも養殖うなぎは天然うなぎとどう違うのでしょうか。結論をいえば暖房器具を使って暖かい場所で素早く大きくしたのが『養殖うなぎ』、用水路やその周辺の石の下で数年かけてどじょうやすじえびを食べながらゆっくりと自然の中で成長したうなぎが『天然うなぎ』です。うなぎは乱獲の影響もあり絶滅寸前の状態にあります。今では養殖うなぎが大半を占めています。昔は台湾から輸入していた時期もありましたが今はほとんどがヨーロッパうなぎという鰻です。ヨーロッパうなぎを中国で養殖し成長したうなぎを日本に逆輸入した鰻が日本の食卓に並んでいます。養殖うなぎはコンクリート製の池で育てます。周りをビニ―ルで囲った池でボイラーを焚いて池の水を暖めます。そして餌を1日に数回に分けて与えます。こうした環境下において半年~1年かけて育てます。うなぎは幼魚の頃は”未分化”と言いオスでもメスでもない性別不明の時期です。そして体長が25cmくらいに成長するとオスになります。さらに夏になり産卵のときを迎えると海に戻ります。その時はメスになります。養殖うなぎは大半がオスであると言われています。密集した状態で大量に育てられる為に過度にストレスを受けている結果であるとされています。自然界の中でどじょう等を食べながら健やかに成長した天然のうなぎはメスになる割合が高いという実験結果もあります。天然うなぎは4~5年かかって大きくなるのが普通です。

うなぎの食べ方。

 ところでうなぎは夏の食べ物だと思っている人も意外と多いのではないでしょうか。本来うなぎは冬眠のために栄養を体の中に蓄えている冬がもっとも美味しい時期です。味も濃くこってりしているので美味しいと感じるようです。なので冬のうなぎと比べると夏のうなぎはさほど人気がありませんでした。そこで頭がきれると当時、評判が高かった平賀源内が土用の丑の日は「う」がつく日だから頭に「う」の文字がつく食べ物を食べたら縁起が良いのではないかと考えたそうです。それから店では「本日土用の丑の日。」と看板を出すようになったと言います。やがて評判が広がり瞬く間に店は客でいっぱいになりました。それからは夏にもこぞってうなぎが食べられるようになったようです。昔は労働者向けにそばと同等の値段で安く売られていて調理すると言ってもただ焼いて食べられていました。江戸時代に濃口醬油が開発されるとそれに伴ってタレが考案されて今のような食べ方になったそうです。

 うなぎの血液にはもともと毒がありますが60℃で5分加熱することで消滅します。古代ローマの人々は魚の脂から作った魚醬とはちみつのたれを塗り胡麻をかけて食べていたそうです。食べ方も関東と関西では違います。関東圏では背中から切り開き頭を切りおとし一度素焼きにしてから蒸します。そしてたれをまぶして本焼きします。関西圏ではお腹から切り開いて頭、背びれ、尾びれをつけたまま焼きます。そして蒸さずにたれをつけます。九州では関東圏とおなじように背中から切り開いてじっくりと焼きます。そしてたれをつけます。白焼はまずは焼きます。その後に蒸して二度焼きします。たれは付けずにわさびや大根おろし、しょうが醬油で食べます。

白焼き(タレや塩、醬油などの調味料、油を一切使用せず焼き上げた素焼きのうなぎ)うなぎ本来の旨味が味わえる。さっぱりした食感と風脈が味わえる。お酒のおつまみとしても最適なうなぎの料理法。
蒲焼き(素焼きしてから濃口醬油、みりん、砂糖、酒などを混ぜ合わせたタレをつけて焼いたうなぎ)東西で違うタレが楽しめる。関東はあっさりとこってりで関西はこってりが多い。浜松市と諏訪市では関東風と関西風の両方とも存在し静岡県から西は関西風のみです。ごはんのおかずになる。
 ぼく飯・ぼく煮 白焼とささがきにしたごぼうと醬油と砂糖で煮たもの。 
 半助豆腐 関西の蒲焼うなぎの頭と豆腐をうなぎのたれと酒で煮たもの。
 うざく 蒲焼きを小さく切ってきゅうりとしょうがで作る酢の物。
 う巻き  うなぎを巻いた卵焼き。 
 せいろ蒸し 関西圏の蒲焼きをたれをまぶしたご飯の上にのせて蒸す。
 ひつまぶし 蒲焼きを5mm~8mmに切りおひつに盛ったご飯にのせる。
 うなぎパイ うなぎパウダーを入れたお菓子。にんにく、鰹風味調味料、シロップが混ざっている。 
 うなぎんぼ うなぎの成分を使ったお菓子。白あん入りクッキーをパイで包んだもの。
 うなぎのゼリー寄せ 生のうなぎをぶつ切りにしてスープストックで煮込みゼラチンで固めたもの。

静岡県ではお茶を風味付けに使います。これは蒲焼といわれる食べ方です。その他にもいろいろなうなぎの料理があります。

栄養たっぷりのうなぎ。

 うなぎは夏バテに効くとよく言われています。これはビタミンB1の疲労回復の効能からです。ビタミンB1は食品から取り入れた糖質を水と二酸化炭素に分解しエネルギーを作り出すのを手助けする役割を果たしています。また中枢神経や末梢神経の働きを正常に保つ効果もあります。ビタミンB1は体に蓄積し蓄えることできないので毎日摂取することが望ましいと言えます。昔から脂もこってりしていることから滋養強壮に良いとされるうなぎは正に暑さで体力が消耗しやすい夏に食べるに相応しい食品です。その他にも高たんぱく質、高ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンD、ビタミンE、DHA、EPA、ミネラルである鉄、亜鉛、カルシウム、銅が含まれます。
 また消化吸収も大変良い食品です。うなぎがぬるぬるしているのは海水と淡水の両方で暮らすのに必要だからです。例えば山登りですが普段はあまり登山しない人がいきなり富士山やアルプス山脈などの標高の高い山に登れば高熱が出たり耳鳴りがしたりします。いわゆる高山病です。魚も同様で気圧が低い所から高い所に移動すると体中の水分が抜け出てしまい生きていくことができなくなるのです。水分は気圧が高い所から低い所へと移動する性質があるからです。うなぎの表面のぬるぬるは体表面に水分を保つ為の仕組みでたんぱく質と炭水化物から作られています。稚魚の内は川で暮らし産卵を海で行いまた川へと帰るうなぎにとって表面のぬめぬめはなくてはならないものなのです。
 ”ムコプロテイン”と呼ばれるうなぎのたんぱく質は私たちの骨格や筋肉、皮膚、毛髪、内蔵或いは遺伝子、免疫物質を作る材料にもなります。また活動エネルギーとして私たちが体を動かす源としても使われています。病気を回復させたり体作りに欠かせないたんぱく質は人にとっては必要不可欠な栄養素である必須アミノ酸の一つにも数えられています。
 うなぎの高ビタミンAは目の粘膜を丈夫にします。また動脈硬化や老化の原因物質の過酸化脂質を分解します。また病気に対抗する抵抗力をつけます。抗酸化ビタミンであるB2、D、Eはがん予防効果があり、DHAは脳を活性化させ、EPAは体の中の余分なコレステロールを減らして血栓予防にも役立ちます。DHAやEPAはオメガ3脂肪酸という脂質で体内では作れないので取り入れる必要のある必須脂肪酸とされています。脂っぽい食品をとると太るのを気にする人もいるとは思いますがうなぎの脂質はそうした脂質とは成分が異なります。うなぎに含まれる脂質は必須脂肪酸のみです。必須脂肪酸はうなぎ100g中に24gを含みます。必須脂肪酸にはDHAやEPAなどがあり血液の状態を改善させる効果がありむしろ積極的に摂取すべき脂質になります。気をつけるべきはうな重の ”ごはん”なのです。どうしても脂質が気になる人はごはんの量を減らしましょう。またそのまま焼く白焼きよりも余分な油がおちる蒲焼きの方が脂質は少なめです。またうなぎの蒲焼きをごはんにのせてうな重として食べるよりかは一品のおかずとして食べた方が脂質の摂り過ぎは抑えられます。ただ必須脂肪酸であるDHAやEPAは空気に触れて酸化すると効果が半減する栄養素です。そこで山椒の出番です。
 山椒はDHAやEPAの酸化を防ぎます。うなぎには山椒を振りかけて食べましょう。山椒には香り成分である”シトロネラール”も含まれています。シトロラネーゼという香りの成分は食欲増進の役割も担ってくれるのでよりうなぎを美味しく食べられます。
またうなぎには亜鉛も含まれます。亜鉛は味を感じる器官である味蕾を発達させるので山椒と同じく食欲増進に役立ちます。
うなぎの健康に役立つ栄養成分はまだあります。ミネラルの鉄分や銅は血液の材料となり、カルシウムは骨と歯を形成し骨粗しょう症を防ぎます。
 これほど体に良く美味しい食品はうなぎの他にはないと思います。また食べ合わせを工夫すればより最強の健康食品となります。

 うなぎはもともとビタミンCが入っていませんから野菜を添えて食べると良いでしょう。とまと、きゅうり、山芋、れんこん等を一緒に食べることで夏に強い体を作り上げることができます。もともと虚弱体質ですという人もこの4つの野菜とうなぎを同時に食べることで体質の改善が期待できます。うざくはうなぎときゅうりの酢の物ですがお酢は脂質の分解を助けうなぎの脂肪をさっぱりと食べられます。きゅうりには利尿作用もあるの暑さで火照った体にも最適です。また春菊、ねぎ、唐辛子、酢、味噌と同時に食べれば神経痛、リウマチを解消方向に向かわせることができます。

 もう一つはねぎ、人参、にんにく、しょうがとの組み合わせです。冷え性に効果ありです。うなぎと梅干しの組み合わせはうなぎの脂と梅干しの酸味がお互いに胃腸を刺激するのであまり良くないとされていましたが実は理にかなっています。うなぎに含まれるビタミンB1と梅干しに含まれるクエン酸は共に疲労回復に良いからです。本当にうなぎは怖いものなしの優れた万能食品と言えます。

 冬の旬の時期や夏の暑い時期だけではなくて一年を通して食べていきたいと感じる食品です。

 今年の土用の丑の日は是非ともうなぎを食べて健康に毎日を乗り切りたいものです。

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